人の印象を絵に映し出すパーソナルペイントは、人(ゲスト)の心や存在のイメージを私が感じたままに表現する、ある種の肖像画です。何らかのモチーフを立てることもあれば、抽象的な絵になることもあります。いずれにしても、ゲストのパーソナリティを丁寧に考察し、画面を構成し、日数をかけて描いていきます。
真っ白な心で第一印象を捉えるパーソナルペイントを描くには次のような手順を踏みます。
①ゲストへのインタビュー
②考察と絵のプランニング
③パーソナルペイント制作と解説文の作成
この中で①のインタビューが最も大切なステップです。
パーソナルペイントを描くために、私はゲストと直接お会いします。
お会いしてまず、ゲストの第一印象を捉えます。
私の場合、何らかの色合いや質感が想起されることが多くあります。
経験を重ねるにつれ、この第一印象を信じきって描くことが、納得のいくパーソナルペイントの完成に繋がることが分かってきました。
第一印象を先入観なく捉えるには、自分の心を真っ白に、かつフラットな状態にしておきます。元々知っている方でも全く初めてお会いする方でも、同じように見ることを心がけています。そうでなければ、直観が鈍ってしまうからです。
一人の人が秘めている、ただ一つのストーリーインタビューでは、なるべく多くの時間をゲストの方ご自身について語っていただきたいと思っています。
人は誰しも、その人だけの人生のストーリーを持っています。
人生の中で色々なことを経験し、様々な感情が生まれ、育ち、独自の価値観と空気感が醸成されていくように思います。
大切にしていることは何か、どんな側面を持っているのか、何が好きで、何が嫌いか・・・。ゲスト自身が語る言葉の端々や表情、仕草、声色に、そのようなことの断片が散らばっています。パーソナルペイントを描くために、それら一つ一つを丁寧にすくい取っていくインタビューになります。
ゲストに心を預け、語りに耳を澄ます人が自分の内面を自ら語ることは、知った間柄であっても簡単なことではありません。まして初対面の相手であれば、普段は当たり障りのない会話をするものです。ですがこのインタビューでは、心の深いところに触れることになります。ですから、私とゲストの間の安心感とか信頼感といったものが重要になります。そのための私なりの秘訣は、ゲストに心を預ける、という感覚です。自分の心を相手に渡す。それはつまり、私自身がゲストに対して無条件に心を開き、先入観を持たず、上も下も無く接するという態度に繋がります。そうして初めて、ゲストは自分自身のことを私に語り始めてくれるのだと思っています。
じっくりとした考察を通して、世界に一つ、その人のためだけの作品になっていくインタビューを終えたら、私自身がゲストのパーソナリティーを考察する段階に入ります。インタビュー直後に絵の構成が決まることはほぼありません。最も重要な色とか質感が決まる程度のことが多いです。そこからゲストとの対話を幾度となく振り返り、パーソナルペイントのプランを固めていきます。2週間で固まる場合もあれば、人によっては1ヶ月以上かかってもおぼろげにしか見えてこない場合もあります。非常に根気を要するフェーズです。
プランが固まったとしても、描き始めると「違うな」と思うことも多く、数回描き直すこともしばしば。こればかりは、どのくらいの時間がかかるのかは分かりません。ですから、ゲストには気長に待っていただくようにお願いしています。期間を約束してしまって中途半端な絵になることは絶対にしません。パーソナリティという、人にとって大切なものが絵の対象だからです。自分が納得のいくまで考察と試行錯誤を重ねることはとてもエネルギーを要しますが、だからこそ世界にただ一枚の、ゲストのためだけのパーソナルペイントになっていくのです。
想いを伝え、ゲストにとって別格の絵になる完成したパーソナルペイントには、解説文を添えてゲストに贈ることにしています。私が何を感じ、考え、その絵を描いたのか。およそ1,000文字程度の文章ですが、私から見たゲストの印象や、絵に込めた想いがきちんと伝わるように書いています。ゲストは絵を見て、文章を読んで、「絵が自分自身である」ことを肌で感じます。それはきっと、普段美術館やギャラリーで絵を観るときとは、全く質の異なる新鮮な感覚です。これまで描いてきた十数名の方々からの声を受けて、私はそう確信しています。
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